「腸活」流行の現代。

 

みなさんが、「酸」と耳にすると、すぐに思い出すのは、「酢酸」「プロピオン酸」などの「短鎖脂肪酸」だと思います。

 

短鎖脂肪酸は一般的なイメージでは、健康によいものとしてとらえられていますね。

 

しかし、お腹の弱い人、特に過敏性腸症候群の人にとっては逆効果であるというデータが出てきています。

 

図にお示しするものは、腸の粘膜の感覚をつかさどる「トリップ・ブイ・ワン(TRPV1)」や「サブスタンスP」という感覚神経分子です(A,C,Eが健康な人、B,D.Fが過敏性腸症候群の患者)。

 

一目瞭然ですが、過敏性腸症候群の患者さんでは、これらの感覚神経分子(感覚のセンサー)が増えており、敏感になりすぎていることがわかります。

 

こういった状態で、酢酸やプロピオン酸などの「酸」が増えたらどうなるでしょう?

 

過敏性腸症候群の患者さんでは、酸を感知するセンサーが普通の人よりも増えており、敏感になっていますので、酸が強くなりすぎることで、腹痛などがひどくなる可能性があるという論文です。

 

この論文はイギリスの「GUT」(ガット)という一流の消化器系の医学誌に掲載されたものです。

 

実際、FODMAP(フォドマップ)という糖質を食べると過敏性腸症候群の症状が悪化する人がいます。

それは、FODMAPは腸内細菌にとってはファーストフードのようなもので、腸内細菌はFODMAPを急激に発酵させてガスと大量の短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸など)を作ります

 

つまり、過敏性腸症候群の人では、もともと短鎖脂肪酸を作り出す腸内細菌(ヴァイヨネラやラクトバチラス)が過剰になっており、FODMAPを食べ過ぎると、酸(短鎖脂肪酸)が増えすぎて、もともと敏感になっている過敏性腸症候群人の腸を刺激し、腹痛や下痢などの症状を悪化させうるということです。

 

実際、過敏性腸症候群の患者では、便中の酢酸やプロピオン酸が高い人ほど症状が重症になっていることが報告されています(対照的に、過敏性腸症候群の患者では酪酸は減少してしまっている)。酢酸やプロピオン酸は、「適量」であれば健康によいものですが、「過剰」になればこのように腸の不調を生むのです。

 

過ぎたるは及ばざるがごとし

 

トリップ・ブイ・ワン(TRPV1)という語句はみなさんよく覚えておいてください。

トリップ・ブイ・ワン(TRPV1)の研究者、デビッド・ジュリアス教授が、先日ノーベル賞を受賞したくらい世界で注目されている感覚分子です。

 

医療法人社団信証会 江田クリニック 院長 江田証

http://www.edaclinic.com