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【遠い約束】
 
僕は内視鏡医なので、毎日毎日、内視鏡で患者さんの癌やポリープを切除している。
 
切除した場合、1年後に内視鏡をしましょう、というお話をする。
 
何も病変がない場合は、3年後。
 
いずれにしても遠い約束だ。
 
愛しあっていながら別れようとしている恋人たちが、「いつかまた笑顔でここで会えたらいいね」などと約束をする。
 
それは、愛する相手に幸せでいて欲しい、というメッセージであるし、自分もそれまで歯をくいしばって生きていこう、という意思表示でもある。
 
内視鏡の予約も、僕にとってはそれと同じだ。
 
これから3年のあいだ、患者さんにどんなことがあるかはわからない。
 
医師側の僕だってそうだ。
 
約束したということは、僕も少なくとも元気で医師をしていなくてはならない。セミリタイアは先延ばしにしなくてはならない。
また内視鏡をするだけのテクニックや知識、体力、エスプリを保持しなくてはならない。
 
それまで生の餌食とならずに生き抜き、また患者と医師とが再会しようという約束だ。
 
ただ、僕は3年後にほとんどの患者さんと再会できている。
 
この混迷をきわめる世界の波にかき消されず、僕たちの小さな約束が果たされる瞬間である。
 
細い糸が切れずにつながってきた。
 
それは現代の奇跡。
 
そうやって、胃がんや大腸がん、ポリープの再発が早期に発見されている。
 
 
医療法人 江田クリニック 院長 江田 証