6/3(月) 10:56配信

読売新聞(ヨミドクター)

 

 マウスのES細胞(胚性幹細胞)から、卵子のもとになる「卵母細胞」を生体内と同じように休眠状態で体外培養することに、九州大の林克彦教授(生殖生物学)らのグループが成功した。不妊の原因究明などに役立つ可能性があるという。論文は米科学アカデミー紀要(電子版)に掲載された。

 哺乳類の卵巣では、卵母細胞が休眠した状態で存在し、周期的に一部の細胞が発育して卵子となる。卵母細胞は原則的に増殖しないため、生殖能力を長く維持するには、残りが休眠状態を保つことが重要だ。

 林教授らは2016年、マウスのiPS細胞(人工多能性幹細胞)から体外で卵子をつくることに世界で初めて成功。ただ、体外培養では全ての卵母細胞が一度に卵子に発育してしまい、また、その卵子の受精率は低かった。

 今回、ES細胞を培養する際、酸素濃度を大気中の約4分の1(5%)まで低くし、生体内と似た環境にしたところ、3週間で休眠状態の卵母細胞ができた。卵母細胞が卵子になるメカニズムの解明や、早期閉経など不妊の原因究明、治療法開発への貢献が期待できるという。

 横浜市立大の小川毅彦教授(生殖再生医学)は「生体内の卵子の形成に近い状態を再現した点で画期的だ。卵母細胞の活性化や老化といった、未解明の課題を明らかにする手がかりになる」と話した。