海事振興連盟 酒田タウンミーティング決議

 

ここ山形県酒田市は、山形県の北部、日本海に注ぐ最上川の河口部に位置し、古くから日本海沿岸や内陸河川交通の要衝として発展してきた都市である。酒田港は山形県唯一の重要港湾、国際貿易港であり、古くから北前船による貿易の中継地として栄えた。平成12年には多目的国際ターミナルの供用が開始され、環日本海圏の経済交流を支える物流拠点港として機能している。また、平成15年に総合静脈物流拠点港(リサイクルポート)に指定され、静脈物流の拠点として循環型社会の構築に寄与している。

 

他方、山形県をはじめとする東北地方において、中小企業が多数を占める海事産業を巡る状況は全国と同様であり、激化する国際競争等の影響により、厳しい状況にある。造船業は、世界単一市場の中で、公的支援を受けた韓国・中国との競争が激化しており、ある程度の手持ち工事量を確保しつつあるものの、鋼材価格の高止まりという懸念材料が生じているほか、人手不足も深刻化している。内航海運業は、経営基盤が弱く、代替建造や労働力確保等の課題を抱えるなど厳しい経営環境にある一方で、いわゆる「2024年問題」の受け皿としての役割を果たすことが期待されている。東北地方に点在する離島航路をはじめとした旅客船航路を担う旅客船事業者においても、新型コロナウイルス感染症の影響で落ち込んだ旅客数が増加傾向にあるものの、燃料油価格高騰等の影響により厳しい状況が続いている。倉庫業は、人手不足や荷主からのコスト削減の要請など、厳しい状況が続いている。港湾運送業は、大多数が中小企業で脆弱な経営基盤に加え、人手不足が深刻になっており、事業環境の整備を図ることが厳しい状況にある。

 

令和5年に策定された「第4期海洋基本計画」を踏まえ、海事産業の国際競争力の強化、安定的な海上輸送の確保、海事産業の振興や学校教育の場における海洋・海事教育の推進などが求められているなか、海事振興連盟は、本日酒田市において、タウンミーティングを開催し、関係者から現地の実情を伺い、今後の海運、造船、港運、倉庫など海事産業の課題や要望について広く議論を行った。その結果、当連盟は、多くの課題、要望に対し、今後とも全力で取り組まなければならないという思いを新たにした。

 

今回のタウンミーティングにおける議論を通じ、当連盟は、我が国経済、国民生活における海事産業の重要性をあらためて認識し、競争力の強化、海事教育の推進、新たな人材の育成などに、政、官、民が一体となって取り組むこととした。

また、「海洋国家日本」の礎の日とするため、海の日を固定化すべきである。

 

以上の認識のもと、当海事振興連盟は、下記の項目の実現に全力で取り組むことを決議する。

 

 

1 海事産業の競争力強化

海事産業強化法に基づく事業基盤強化計画、特定船舶導入計画等の認定・支援制度等を活用して、海事産業の国際競争力強化に取り組む。

特に、造船・舶用工業の競争力強化に資する生産性向上対策として、造船所のDX化等に必要な技術開発や設備投資、新たな設計体制構築に対する支援を求める。あわせて、自動化等による船員の労働負担軽減を実現する船舶の開発等に対する支援を求める。

 

2 海事分野のカーボンニュートラル推進

令和5年7月に国際海事機関において採択された「2050 年頃までに国際海運からのGHG 排出ゼロ」の目標等を踏まえ、船舶の脱炭素化を推進するため、GX 経済移行債等も活用した、新燃料船や省エネ船の設計・開発、生産準備の円滑化、生産体制の整備、普及促進に対する支援のほか、新燃料の供給体制整備等に対する支援を求める。また、新燃料船に携わる船員の安全確保とその能力向上を図るため、教育・訓練を含む必要な措置を講じるよう求める。

 

3 船員の確保・育成

将来にわたり物資や旅客の海上輸送及び水産資源の安定的な供給体制を確保すべく、国の計画や基本方針の記載を踏まえた、船員の確保・育成を具現化するため、船員職業を志望する人材が希望の職場で就労・活躍するための雇用促進、海技教育機構をはじめとする船員養成教育機関の維持・定員拡大、「船員の働き方改革」の推進を通じたより魅力ある職場環境の整備に取り組むことを求める。

なお、船員は、家族や陸上社会と離れ、職住一体となった特殊な労働環境下にあり、行政サービスの受益が一定程度制限されていることから、引き続き船員に対する住民税減免措置の拡大等の税制措置に向けた取組みの実現を求める。

 

4 造船人材の確保・育成

深刻な人材不足への対応として、新たな育成就労制度への現行制度からの円滑な移行も含めた外国人材の円滑な受入れを促進するための環境整備を求めるとともに、教育機関と連携した海洋・造船教育の充実等国内人材の確保・育成に係る取組みに対する支援を求める。

 

5 内航海運の活性化等

内航海運の活性化を図り、荷主のニーズに応え、安全かつ安定的に輸送サービスを提供し続けるため、物価高騰や人件費上昇、船価を十分に考慮した運賃・用船料となるよう、取引環境の改善により、持続可能な事業運営を実現できる環境整備を求める。

また、新造船建造のための経済的支援と技術的支援があわせて受けられる鉄道・運輸機構の船舶共有建造制度について、船主要望に対応した見直し等支援の拡充を図り、老齢化が著しい内航貨物船、旅客船の代替建造の促進を図るよう求める。加えて、我が国の安全保障及び国内海上貨物の安定輸送のために不可欠なカボタージュ制度を堅持するよう求める。

 

6 燃料油価格高騰対策

引き続き燃料油価格高騰の影響を受けている事業者を支援するため、船舶用燃料である重油、軽油を対象とした燃料油価格激変緩和補助金の継続を求める。

 

7 モーダルシフトの推進

「2024年問題」によるトラックドライバー不足への対応や働き方改革への解決策、カーボンニュートラルに向けたCO₂ 削減の推進策として、トラックから内航海運へのモーダルシフトを推進するための支援を求める。

 

8 旅客船の維持・活性化

生活に欠かせない物資輸送や地域住民の移動手段に加え、大規模自然災害時には緊急輸送手段として不可欠な役割も担っている、フェリー・ジェットフォイル等の旅客船事業の維持・存続に向け、離島の住民の日常生活や地域経済を支える離島航路への支援や旅客船需要を喚起する実効性のある対策の実施を求める。

   あわせて、DXの推進に資する通信インフラの整備や、キャッシュレスシステム導入等への支援を求める。

 

9 旅客船の安全対策

旅客船の安全に対する規制の強化に伴う旅客船事業者による安全対策の推進に対して、必要な支援を求める。

 

10 航行の安全確保

国際協調の強化により、紅海をはじめとする世界の重要海域における商船の自由かつ平和で安全な航行を確保し、安定的な国際海上輸送を実現するとともに、海賊略奪行為の防止・根絶に向けた取組みを継続することを求める。

 

11 浮体式洋上風力発電の推進

再生可能エネルギー導入拡大に向けた取組みが加速するなかで、造船技術の活用が期待される浮体式洋上風力発電について、早期に着工するための環境整備を進めるため、技術開発や製造体制の整備に向けた造船事業者等による設備投資、洋上風力発電事業を支える船舶の建造に対する支援を求める。

 

12 船舶関連機器のサプライチェーンの強靱化

船舶等の安定供給体制を維持するため、供給途絶リスクのある特定重要物資の新たな指定、船舶関連機器のサプライチェーン強靭化に向けた生産体制構築への設備投資、重要技術の開発に対する支援等、経済安全保障推進法に基づく支援の拡充を求める。

 

13 官公庁船の建造促進等

国の安全保障を支え、民間船舶と異なる特殊な技術を要する艦艇等の建造・技術基盤の維持のため、我が国周辺海域の安全保障に寄与する艦艇等の建造・修繕のための予算確保、契約方式の改善、防衛装備品の海外移転に向けた支援や防衛生産基盤強化法の適切な運用等を求める。

 

14 公正な国際競争環境の確立

世界単一市場の中で中韓の造船業と競争していくためには、公正な競争条件の確保が重要であることから、公正な国際競争環境の確立に向けた取組みの推進を求める。

 

15 倉庫業に対する支援

国民生活に必要不可欠な物資の保管や積み替え、流通加工等を行うとともに、災害時にも円滑な支援物資物流を実現するなど、産業活動や国民生活に重要な役割を果たしている公益性の極めて高い倉庫業について、人手不足に対応した倉庫内作業の省人化や災害対応力強化、GX投資の推進のために必要な支援措置の拡充を求める。

 

16 海洋・海事教育及び広報の充実

海洋国家である日本の未来を担う子供たちに対し、海事産業が我が国経済において果たす重要な役割に対する理解・関心を深め、将来の職業の選択肢とするため、海事関連団体や事業者相互の協力を図りつつ、地域の高校、更には小中学校とも連携しながら、キャリア教育や職場体験など教育現場における海事分野に係る学習機会の提供に取り組む。

また、海を教育の場として少年少女の健全育成を目指して活動している海洋少年団について、その活動の活性化等に取り組む。

加えて、広く国民の「海」からの恩恵や海事産業の役割に対する理解を増進するため、「C to Seaプロジェクト」を推進する等、官民を挙げて海事広報の充実・強化に取り組む。

 

17 海の日の固定化

平成8年に国民の祝日化が実現した「海の日」について、本来の制定の趣旨に加え、「国連海洋法条約」が我が国において発効した日であるとともに、「海洋基本法」が施行された日であることに鑑みて、祝日である海の日を7月20日に固定化し、「海洋国家日本」の礎の日とするよう全力で取り組む。

 

18 関連税制の確保 

令和6年度末に期限を迎える「中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除の特例措置(中小企業投資促進税制)」、「中小事業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除の特例措置(中小企業経営強化税制)」及び「地域経済牽引事業の促進区域内において特定事業用機械等を取得した場合の特別償却又は税額控除(地域未来投資促進税制)」の延長の実現に向けて取り組む。

 

19 有人国境離島法の延長等

令和8年度末で期限を迎える「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法」(有人国境離島法)の延長の実現に向けて取り組む。併せて、特定有人国境離島地域への飛島(山形県酒田市)等の追加に取り組む。

 

以 上

 

令和6年 6月16日

海事振興連盟