今回は、既判力を取り上げます。

 

既判力論は、これまでの指導から、受験生の答案がカオス化しやすく(とりわけ指導者も誤って教えている恐れ)、

受験生の方が、正しい理解をなさっているかの確認の指標になればと思っています。

なお、私の民訴法の解説は、常に旧訴訟物理論を当然の前提にしていますのでご了解ください。

 

既判力論は、一般に、客観的限界、主観的限界、時的限界という3項目で説明されることが多いです。

むろん、旧司法試験レベルの短い問題であれば、この観点で十分だったかもしれませんが、

現在の司法試験・予備試験での既判力論を正しく解くことは難しいと言わざるを得ません。

 

まず、既判力論の整理として、作用要件・作用効果、という整理が必要かと思います。

 

1 作用効果について

既判力の意義については、前訴の判断内容の後訴裁判所に対する拘束力、といわれますが、より緻密に言えば、

⑴後訴裁判所は、前訴基準時における前訴の判断内容を前提として判断をしなければならない、という積極的作用と、

⑵その反射的効果として、当事者に対し、前訴の判断内容と矛盾した帰結をもたらす主張立証を遮断する、という消極的作用です。

この⑴⑵がまさに既判力の効果です。

そして、その基準時としては、前訴の事実審口頭弁論終結時とされ、基準時後の形成権の行使が議論となりますが(有名どころなので省略します)、この基準時論は、既判力の作用要件を充足した場合の「効果」の議論であることを肝に銘ずるべきです。

そして、⑵の遮断効で「矛盾」するとして排斥されるべきか否かの比較対象は、前訴の判断内容と、後訴での主張立証です。

次の114条の作用要件のように訴訟物同士を比較することがないようにしたいところです。

 

2 作用要件について

ここが受験生の泣き所といってもいいでしょう。

 

まず客観的範囲について、既判力は、民訴法(以下法令名略)114条1項から、主文に包含するものに限り生じ、

114条2項で、相殺の抗弁についても生じます(相殺の抗弁の既判力はまた別の機会に委ねます)。

そして、主文に包含するものとは訴訟物を指す、というところまでは、どの受験生も暗記をしているところでしょう。

他方、主観的範囲については、115条1項1号が原則であり、2号から4号に該当する者にも拡張して生じる、というところも問題なかろうかと思います。

 

問題はここからです。

114条、115条の規定は、あらゆる訴訟を想定し、当該訴訟における既判力の「発生」要件を定めたものです。

即ち、当該確定した事件についての既判力の生じる客観的範囲や主観的範囲を定めたに過ぎません。

 

実際に後訴が提訴された場合に、前訴で「生じた」既判力が後訴に「作用」するかどうかは、全く別個の問題です(←ここが理解のキモ)。

 

事例問題では、そうした「作用要件」として、114条や115条を使えるかがポイントになります。

 

まず114条1項から。

一般に、前訴と後訴の訴訟物とを比較し、前者が後者と同一・矛盾・先決といえる場合に「作用」するといわれます(このこと自体は、よければ新旧コンメンタールの114条の解説もご参照ください。自明のこととして説明されています)。これを、客観的作用要件、として理解すべきでしょう。

即ち、114条1項で「生じる」既判力は、【前訴訴訟物が後訴訴訟物との関係で同一・矛盾・先決関係といえる場合】に、後訴に「作用」する、ということです(【  】が114条1項の客観的作用要件として理解すべきもの)。

 

ここで肝心なのは、客観的な作用要件においては、訴訟物同士の客観的比較である、ということ。前訴の判決内容と比較するのは誤りです。

なお、「矛盾」とは実体法的に非両立であること、「先決」とは、前訴の訴訟物が後訴の請求原因の一部を構成する場合、と理解しておくと誤りが少ないでしょう。

 

次に、114条2項では、前訴の反対債権の不存在について既判力が生じる、と判例通説ではされますが、

これも「作用要件」に置き換えると、後訴に114条2項の既判力が作用するのは、

前訴の反対債権が、後訴訴訟物との関係で同一・矛盾・先決といえる場合】です。

これも権利同士の客観的比較、を間違えないことが注意です。また、「先決」が、前訴の反対債権が後訴の請求原因の一部を構成する場合、と理解するとよいです。

 

ここまでくると、115条の「作用要件」ももうお分かりになるかと思います。

前訴の115条1項1号~4号に該当する者が、後訴の当事者である場合、です。

 

答案上でこの「作用要件」という言葉を書くのは一般的とは言えませんし、聞かれるのは客観的な面か主観的な面かのどちらかですので、「作用要件である」という理解を念頭において、問題を解くことが必要になります。そして、聞かれている問題が、作用要件の話なのか、作用効果の話なのか、きちんと見分けることが肝要です。

 

3 以上を前提に、予備24の設問1、司法27・28の各設問3の課題を確認してみてください。予備24では、決して安直に信義則論に逃げ込まないでください。