民事系は、ちゃんとやれば点が伸びる科目ですが、そのあたりがまだまだ権威を持った一部教員や予備校の指導が邪魔している印象です。


以下、民事系を、実体法、手続法にわけて説明します。


第1 民事実体法


民事実体法は、学説や論点を追いかける間違った勉強方法や、論点捜しというアプローチのままではいつまでも伸びにくいですが、以下の点を強く意識してアプローチする思考方法を確立すると、出題趣旨等を外さなくなります。


担当している論文パーフェクト答練や論文力完成講座等ではそういった思考方法は随時紹介していますが、その一端について、改めて整理して記します。


ポイントは、①訴訟物たる権利を巡る思考、②法律要件分類説を意識した思考、③当事者目線、に尽きます。


1 ①訴訟物たる権利を巡る思考

 民事実体法の出発点は何と言っても訴訟物です。究極的に、訴訟物たる権利のありなし、を巡っての攻防です。この訴訟物で取り間違うと致命傷です。

 会社法での訴え系を除くと、民事実体法科目での訴訟物は、大きく、物権的請求債権的請求に分類できます。

 そして、物権的請求であれば、原告側は、自己に物権が帰属すること(権利自白注意)と、相手方の占有・妨害・妨害のおそれ等という要件に該当する具体的事実の主張をしていきます。

 他方、債権的請求の場合、原告側は、①約定債権、②法定債権、③代位・取消等のいずれかから考えて、訴訟物を選択し、条文などに基づき、その訴訟物たる権利の発生を基礎づける具体的事実の主張を行います。(債権譲渡の場合は、これに加えて債権の移転原因事実も必要となります)


 会社法の訴え系であれば、その訴えを定める条文を特定し(募集株式発行無効の訴えであれば828条1項2号)、原告側は、その訴訟要件・本案要件に該当する事実を主張していきます。


 こうした権利の発生要件が一応具備する場合は、被告側の反論を行いますが、これは②に委ねます。


 大事になるのは、原告の側で、一体何を求めるのか、その求めるものの発生要件が何で、その要件該当事実が存在するといえるか、を考えることです。


 なお、訴訟物が複数考えられる場合もあります。それぞれを単純併合で求めるものもあれば、主位的・予備的の形になるものもあります。



2 ②法律要件分類説を意識した思考

 これに対し、被告側の反論は、大きく分けて①否認と②抗弁のいずれかです。

 おおざっぱに言えば、請求原因や訴訟要件に関して、要件非該当の主張が①です。


 他方、②抗弁を主張することもあります。抗弁は、請求原因事実と両立し、訴訟物たる権利の発生障害・消滅・行使阻止(←ここの引き出しは不可欠)となる要件に該当する事実の主張です。


 この、①②は、別の言い方をすれば、法律要件分類説を意識した発想です。これが、被告の反論を正しく捉える鍵です。


 以下、原告の再反論以下も、否認か再抗弁か、などと同様に考えることで足ります。


 こうして見つかった争点に関して、問いに併せて、私見を述べるなら「確かに・・・しかし・・・」などと悩みを見せて結論をまとめます。私見は原告・被告いずれかの主張に沿うこととなるでしょうが、原告・被告の主張への批判や、理由補強(具体化含む)が私見の理由付けとして有用です(これは公法系などでも同じ)。


3 ③当事者目線の有用性

 ①②の主張選択に共通していえることとして、当事者としては、まずは大なる主張をしたいはずですあるいは、認められやすい主張を選択するはずです(要件が少ない、立証が容易等)。


 大なる主張とは、請求額として多くなるものです。原告で言えば、考えられるMAXの金額での主張がしやすい法律構成が優先です。逆に被告で言えば、原告の請求を棄却にできる主張が最優先であり、それが無理なら一部棄却に持ち込む主張を考えることとなります。

 但し、大なる主張の法律構成が明らかに要件該当性に無理があるのであればそれに拘ることはせず、より確実な法的構成に向かうでしょう。


 なお、事実の評価・抽出でも、当事者目線は有用です(当事者にとってどう受け取れるか、という思考)が、事実評価や抽出は、当事者目線以外の視点も有用ですので、別の機会に委ねることとします。



 以上の思考方法を、きちんと踏まえることです。要件効果論の中に、解釈論があるならば、基本的には判例説に従い、結論と理由(但し論理的につながらない意味不明な理由付けなら書かないのをお勧め)を示せば足ります。未知の解釈論や判例がない場合も、解釈の結論を示すことは必須で、理由付けとしては、「確かに・・・しかし・・・」と悩みを見せるのが理想です。なお、いずれにしても、わざわざ問題提起するほどではありません。規範部分について結論先行で記載すれば足ります。



 民事実体法は、訴訟物を巡る、事実及び法律上の主張反論に尽きる、といっても過言ではありません。



第2 民事・手続法

 民事訴訟法の思考方法はなんだか確立されていない、という方が多いかとは思います。

 確かに、民事訴訟法の出題形式は様々であり、細かく分ければ、その出題形式に応じた分析法に分類できるので、一概にはいえないのはそのとおりです。

 しかしながら、民事訴訟法も、当事者間の紛争を前提にした、条文・判例に基づく要件論であることは確かです。また、論文試験については、結論と理由を書くことが必須です。


 やや一般化しますが、思考方法において極めて重要なのは、「結論を左右する原理原則・条文・判例は何か」の発想です。

 この原理原則・条文・判例が特定できれば、あとは要件該当性を、原告被告の双方向から考えてみて、結論を出すのみです。


 その中で、どの原理原則・条文等の問題であるかは、その手続における段階によって変わります。そのためには、INPUTの際にも、その原理原則・条文等が、どの段階での問題なのか、を正確に把握することです。例えば、弁論主義であれば、審理における原則ですが、判決の理由を書く段階でより明確に現れます。既判力や参加的効力であれば、判決効の問題ですが、後訴が生じたときに、後訴におけるある主張立証の可否、という形で顕在化します。処分権主義も、判決主文を書く段階で顕在化するケースが相当数あります。


 そして、誘導がある場合は、とにかく、誘導に沿って結論と理由を示す(その際に必要となる原理原則・条文・判例への言及を忘れない)、に尽きます。書き出しで迷ったら結論先行で書いてみて下さい。


 なお、問われる原理原則は、概ね固まっています。最も重要になってくるのは、訴訟物に関連する概念(既判力、当事者適格、二重起訴、訴えの利益、必要的共同訴訟の成否など)や、主要事実に関連する概念(弁論主義、証明責任、参加的効力など)です。これについては、普段から、訴訟物や主要事実を考える癖を持つことが大事でしょう。そして、民事実体法の応用部分であり、民事実体法の知識も使いながら、考えていくことです(その際、上記の民事実体法の思考方法が確立していれば、ここの部分は何の苦もなく考えられるはずです)。


 ちなみに、問いのパターンとして多いのは、誘導がある場合(課題型)を除けば、①なすべき判決や裁判所の検討事項を問うもの、②当事者のなすべき手法やその可否を問うもの、③後訴での主張立証の問題を問うもの、④当事者の主張の訴訟法的意義を問うもの、など、多様です。それぞれに応じた思考方法がありますが、上記の「結論を左右する~」の応用ですので、ご自身で一度お考え下さい(受講生の方は、これらの詳細については、入門講座のレジュメ等をご参照下さい)。