追憶───

九月の雨、東京港入口

雨がさわさわさわさわと降ってます

暖かくもなく寒くもなく

こんな日には若かりし日の新聞少年時代を思い出します

 

懐かしの東京港時代

朝は3時ころ起きて

インクの匂ふ新聞に

広告を挟み込むことから始まります

汚れてくたびれたジャージ姿で

芝浦東京港の下町を走ります

 

朝はたちまち明るんで来て

夜は家屋の中にまだ蹲ってゐる

放恣な間取りアパートでは

半開きのガラス障子の間から

寝具がはだけ

男だか女だかわからないアンヨがにょっきり

 

雨がさわさわとさわさわと降っています

けふは予備校も休んで

みんなで暮らすお蚕棚のベッドに横たわり

相棒は6人

べったりとポマードで頭髪を固めたヤングマンは

繰り返し繰り返しソノシートで

「シェルブールの雨傘」をかけています

無聊慰め顎髭を抜く奴も

 

そしてようやく夕刻近くなり

裏通りをまた裏通りに行けば

少し溝臭く

赤い灯青い灯

徒党を組んで初めてのスナック

初めてのあるこほるドリンク

ジンフィズのプチプチの泡だちよ

チェリーが紅く潤んでゐる

 

と、不意に背中が重たくなり

いらっしゃいませと若い女子の嬌声が

上ずった若さばかりのぼくの背に

確かにあれは女の子のおっぱい

重たく懐かしくまろくまろく

夜は更けつつ外はけふみたいに

さわさわとさわさわとセプテンバーレイン

暖かくもなく冷たくもなく

それこそ九月の雨が降っていました

 

倉石智證