林檎可愛いや。

柞(ははそ)はの妣(はは)のその娘は───

母を亡くした妻が、林檎の木の下に来て手伝うと云ふ。リンゴ可愛いや。柞はの妣のその娘は、心細げにもなりけむ。師走になりて霜落ちて寒くなりけむに、空ばかりが晴て、林檎を収穫せむとする。亭主は梯子に上りて時に、ぽーん、ぽーんと樹下に林檎を投げる。をもしろきかな。道を挟んで真向いのお家の若いお嫁さんに林檎を胸に抱いて行ってあげる。また小学生の子どもが通れば声を掛けて、そのお母さんにもリンゴはどうですかと、幼い子供は眼をくりくりさせてお母さんを見やる。そんなこともあってふる里は師走に、日は釣瓶と落ちゆきて、風も少しく出て来たよ、妻ヨはよお家にお入りや、寒くなって来たよ、ぼくは大丈夫梯子の人のスーパーサイヤ人、もう少し剪定を続ける。母を亡くした娘のいと心細げに林檎の木の下に来て、何か手伝うことはありしかと云ふ。柞はの妣を亡くしし妻の、とりとめも無やりんご可愛いや。

 

倉石智證