大きなものに流されて。

高い処はいい。しばし世間を忘れられる。剪定師はいい。地上の枝枝で忘れられた存在になる。松や、梅木や、ヒバの高処にたかっていると、瞬間自分が高い処にゐることを忘れる。鳥が身近に鳴くと、鳥語を得て、哲学めいた観想に気分が宙に浮かぶ。よせよせ問答。大きなモノゴトに流されてゆく。

塀の外ではパワーシャベルがアームを奮い、地を掘り下げて下水管敷設工事が続く。ヘルメットをかぶった工事人よ、危なくはないか。みな日に灼けて初老の人たちばかりなのだ。

けふも北に病を得た人がゐて、ば様は次第に自分自身に関心を喪いつつ、夢の中へとしきりに游びたがる。バイタル───体温36.6、血圧は120台に、酸素飽和度96に、食事の量は昨日より雀の涙ほどだが増えた。さて、また花に救いを求めん。君が代蘭はついに花の天頂まで咲きいきみ、花穂の下から花片が萎れ始めた。秋冷まさに皇帝ダリアをして目覚めさせ得ん、花芽が天蓋に付き初めました。

 

倉石智證