緑雨降る、おまへに

緑雨は葡萄の蔓伝いに

手と腕を棚下に上げるたびに

袖口に滴り、腕を伝い皮膚に生温かく

眼の網膜に雨滴が滴り膜を結び

雨の日は心底仕方がない

執拗な雨音が世界中を濡らしてゆく

やがて躰を翠に冷やし

やがて躰を繭のやうに包み

それだけでももう深い睡魔が

森々と冷えて

森々と眠たくなってくるのだ

農協番号を呼ばれれば

否応なくしくじったモノを取りに行かなければならない

そのころには体温で下着もぱさぱさ乾き

育ち来る葡萄の房房の傍ら

もう色んな事に驚きもせず

ためらわず、ちゅうちょもせず

ただ必要な農事を繰り返すだけになる

緑の指先から染まってゆくようだよ

今さら勇気を持っていたら

カッパなど脱ぎ捨てて

六月の雨の下を行進する

 

六月は大地に突き刺さるやうに真直ぐに降る雨だ。

倉石智證