「唐さんのあちらにいってもシャレのめす花園神社ゴールデン街」
「唐さんの昔なつかし停車場の花園神社、腰巻お仙」
1967夏、東京・新宿の花園神社のテント劇場で上演された「腰巻お仙」の一場面。
大久保鷹に水をかけられる唐十郎(写真 井出 情児)
六畳かもしれない
いや四畳半かもしれない
真珠の形をした涙かもしれない
そこはかとなさかもしれない
地下道へかもしれない
大ガードかもしれない
喧噪だっかもしれない
喧嘩でだったかもしれない
腕を組んで手を結んで
影絵のやうに踏切を渡る
警笛音がうるさいかもしれない
なにか話しかけたかもしれない
残侠伝の映画館で
はげしく貧乏ゆすり
線路わきの赤ちょうちんに駆け込み
レバ刺しを喰ふ
焼酎に火傷
大真面目な恋だ
塀を乗り越えて股倉から世界を鑑みた
旭日旗が空を飛んでゆく
新宿かもしれない
花園かもしれない
少しでもアナーキーへと
昼なのに眼の中を夜が彷徨ふ
彷徨い人の真似事をする
持てるならば全力を尽くす
あゝ、常に酔はんことを願い
あゝ、常に入り口近くで地団駄を踏み
紀伊国屋だったかもしれない
DIG、DUGだったかもしれない
風月堂にビレッジゲート
容赦なく朝が世界にやって来る
六畳だったかもしれない
四畳半だったかもしれない
真実だったかもしれない
真理だったかもしれない
いつだって大まじめの体力任せ
陽が上る朝が来る
酔いが部屋に醒めてゆく
饐ゑた青春の臭い
わたしは激しく嘔吐する
倉石智證