聖五月へ───

山菜採り、湯沢地区。

五月の風は人を貴族にする。況や“緑のたぬき”とや。根曲がりを藪漕ぎに、山独活も薫り高く野辺に頂き、丘に登ればわれらがサンクチュアリ、風和いで、デッキチェアにふんぞり返る。湯を沸かし、カップ麺に注ぐ。待てば、雲が万太郎、谷川岳、四囲の山の峰に浮かび、白頭、鬚髯(しゅぜん)白き翁曰く、「遊子とは」雲は留まるや、それとも去るや、となむ。中老の男子も思わず「おーい、雲よ」と、相槌を入れて、時にようやく鶯の鳴きい出す。ダチョウの首に似た白雲はすぐに千変万化、青空に白雲を潤おす。あ~、ぜいたくだなぁ。お箸は木の枝をナイフで削り、独活の滴るをカップ麺に添える。将に山笑ふ。無量無限の新緑が萌え出でて、微風が頬を撫でてゆく。まこと五月の風は人をして貴族たらしめん乎。

 

倉石智證