春愁───

あすこに山がある。また古びた梅木に逢わんと丘野辺に上がって来た。丘の辺なんぞ愛(かな)しき。足元には青の眸眸、イヌフグリが燦燦と陽に咲きほころび、放棄地はすでに地衣に放恣だ。おーいと呼びかけてみる。なんぞ変わったことはないかい。ああ、変わったのは僕だけで、それでもあすこやここいらにはどうも時間と云ふものが流れていて、それはぼくを少しセンチメントにさせる。春愁や、弱法師(よろぼし)、老婆の俤が放棄地を横切ってゆく。

白州地区