第一章───
ふんぞり返りわれにどんどん桃色に肥えてゆく
家を突き抜け街を突き抜け
それでもどんどん大きくなってゆくことなんかあるのか
悔悟があるから足を踏みしめ手を握り締めるたびに
頭のてっぺんから紫色の烟が
ぽっほぽっぼと立ちあがるらしい
電車のレールが軋み乍ら僕の傍らを行く
物珍し気に満員のお客様たちは窓からさかんに僕に手を振ってくれている
でも世間さまなんて気まぐれで
有罪だとしたら一体いつ云はれるんだらう
いやほおって置いたら桃色に
どんどん大きくなっていってしまうのは間違いない
わが愛すべき扁桃体のことだが
反対意見では山野や都会からますますぼくは溢れてしまう
電車はぐるぐる回っているばかりだ
第二章───
夜更け、虫が飛び込んできて灯りのフードに突進して来る
何度も何度もぶつかってそのたびにゴンゴン音を立てる
ふと気を取られてあっちを向いていると
ドアの隙間からするりと入って来るものがあって
誰それさんが今死去しましたよとひっそりと告げる
もうぼくは居たたまれなくなって般若心経を必死に唱える
終章───
あんころ餅を食べたいのはいいが、
僕たちの運命はそれからどうなるんでせうね
倉石智證