まあるい眼鏡はなんのため

それで世間を覗きます

おかあさまに云ひつけますよ

おお、お姫様はお屋敷から庭に出て

鳥遣いが鳩を枝に呼びつけます

高い給水塔にはその下に

うまく喋れない子供たちがゐて

はとまめむぎ

はとまめむぎ

と口遊む

1917藤田嗣治「夢想と鳩」

 

もうどうしようもない

仕方なかった

付ける薬はなんでせう

擦り傷打ち身や唐変木

指折り数えて潜ります

 

長いプラットホームを駆けて駆けて駆けて

あなたはついに戦争に行ってしまうと云ふから

お別れのキッスを長いこと

胸をきつく抱きしめてください

聞こえます

あの車掌のなんと云ふ誇らかなフルーティボイス

 

倉石智證