花が身投げするわけはなからう

朝のバルコンには光が波のやうに押し寄せ

粒子がそこいらぢゅうにあふれてしまふ

 

高速道路だから乗ってしまへばもう引き返すことは出来ない

PAではいつも熱心に便器を洗ふ人がゐて

白い便器の形の中に顔から包まれるやうになる

おやまあしかし、けふはどうしたんでせう

あたらしい花がまだ届いていません

しかし水をどんどんそんなに流してはいけません

丘の上から見ればなにやらぼうと

遠くの方が色付いてゐるのかもしれない

 

トンネルを抜けて坂道をワッと下って東京へ着いた

花が身投げするわけはなからう

朝のバルコンには光が波のやうに押し寄せ

粒子がそこいらぢゅうにあふれてしまふ

ぼくはぼくの不手際のため

ちょっと不貞腐れている

1977デビッド・ホックニー『マイ・ペアレンツ』

 

永遠の時の刻のなかにかうして置かれて

あらためてそして

そっと齢をとってゆく。

 

倉石智證