不機嫌な二月が過ぎ

でも3月に目途が立っているわけではない

さうかうするうちに舗石の隙間からは雑草が顔を出し始め

多くの汚れた靴がその上を踏んでゆく

行進、と云ふほどではないが

しかつめらしくでも、三月には決め事がある

二月にも決め事があったが

そのやうにしてすぐに

頭蓋に鳴らされる鉦とか追い立てられ

ご承知のやうな整列とか

みんながてんでんばらばらに

あるものはてんやわんやと

でも、山に登った人達も潮が曳いた痕に降りて来る

1954桂ゆき「人と魚」

第五福竜丸が南太平洋で水爆実験の死の灰を浴びた事件に取材した。

1954,3,1ビキニ環礁「第五福竜丸」被爆

 

地球が丸いと云ふことも

いや、やや歪なんだとか

それで潮の満ち引きとか

あの人たちの急にスキャンダルとか

潮に灼けた海人たちの

魚を担いで

朝陽に爛爛と照らされて

砂交じりに

でも、誇りに満ちて

昂然と顎門を上げて

嗚呼、抗議の難民と云ふわけに

何が何でもと云ふわけに

二月は不機嫌で

でも三月はまた約束されているわけでなく

長い、ほんたうに長い、

行列が続く

 

倉石智證