春ヨこうこうと呼ぶ声がする

遠くの山で氷がひしぐ音がする

平地ではものの芽のものめき

なにかが誰かをせかし始める

 

井戸の周りを三篇回る

土蔵の周りを反対巡り

ぬける空の青空

橋上では旗指物が死に物狂いではためいてゐる

村の境目ではいつものことだ

きっとおしくらまんじゅう

ウグイ、鮠の背中に陽の光が煌めきたち

不幸があっても目を背けてはなんないんだよと

運命論者は村一筋の道をたたらを踏むやうに走って行った

そんなことは内乱だとはたやすく呼べない

 

倉石智證