すべての人はまた逢う日までと

手を振ってまた逢えるさあ

1989辰野登恵子「WORK 89-P-13」諸要素の多極的な拮抗

 

すべての人は

誰一人なくそこを潜り抜けてあっちへ行っちまうものだから

こっちに残されたものたちはちょっとおたおたする

たくさん愛した人は困るね

あっちへ行っても

ちょっと合図しただけで100人とか200人とか集まって来て

挨拶やらにおしゃべりだけで間に合わなく

抱擁したり

この世と同じやうにする

ただ言葉はそんなには必要なく

おカネはタダだよって

時間はみんなが融通し合うから

何処から始まりでどこが了はりなのか分からない

みんな親切な人ばっかりで目配せして素通りする

幾度も幾人も痛痒なく躰を通り抜けてゆく

ほんたうだね、まったく聞いたやうな話だけれど

すべてのものごとは透明なんだけれど形がある

変幻自在で

でも向かうへ行ってもきっと誰それさんてすぐに分かるから

合図したら飛んできてね

また無色透明に蜉蝣みたいになって逢おうじゃないか

 

ぼくらは精一杯生きて、またお会いしましょう

 

倉石智證