きみがきみであるためにはどうしたらいいんでせう

きみはしょっちゅう出掛けてしまう

ぼくがぼくであるためにはどうしたらいいんでせう

ぼくもしょっちゅう出掛けてしまう

きみは出かけてしまう

きっときみであるために

そして多分きみになるために

それこそがまだ見たこともないきみなんだ

ぼくも出掛けて仕舞う

長い長い道のりなんだね

いつか自分に会えるだらうと

細い細い道のりを

ただきみを見つめて歩いていたんだ

 

きみは前から来たんだ

そしてぼくは少しも見間違うことなんかなかった

地球一杯の仕合わせになるのも

水の中いっぱいの息が詰まるほどの自由も

そんなに長い時間はかからなかった

ぼくたちはお互いにふかく交じり合って

さうして子供たちが生まれた

 

老人は僕たちの前にゐる

そしてぼくたちも白い髪の毛の老人になる

病院の受付で「連合いの方」と呼ばれた

妻には僕が連合いで

ぼくは妻のすぐ後ろにゐて

モニターの鏡の前でもあったが

思わず姿勢を正すのであった。

ぼくたちは長い旅路の末、ふと病院の受付で出会い、

たまたま僕が君の後ろにゐた、と云ふことでもいいんだ。

すべての偶然はそんな今のためにある。

 

倉石智證