ぼくらには一人一人に異なる名前がある───

1974ウィフレド・ラム「我々はここにいる」

1937 スペイン内戦

 

さて、さうして次々と名前が出て来る/ヤタ、タニタ、メロン、カルダモン/みんな主人公になりたがって/部屋の中をうろうろする/ところで主人公はほかのどこかにいるらしい/天井からは糸が吊り下がって/右にフラフラ左にフラフラ/真直ぐなようでいて少しも真直ぐでない/さらに自分が行きたいところに行けたためしなどない/そして最低でも誰が誰を笑わせるかなどと決まってゐて/外れもあって/そんな時ははた目にもつらいものだった。

 

そんなことをしているうちに突然ケアマネージャーから電話がかかった。

 

/だいたい3人も4人も必要なんだらうか/次々と一人消され二人消されてゆく/消しゴムのやうに/最後の独りになった時初めて振り返って「待ってくれ」と手振り身振りしたのだが/部屋の外にポーンと投げ捨てられて/部屋の中は真っ暗になった/道徳的威厳などあったものじゃない/多くの小学生たちが川縁で大人たちの仕草を覗き込んでいた。

 

倉石智證