/ばーさんがゐるかと後ろ振り返る野分の声が家の中まで
/夫婦して野分の中を帰るかな畑仕事をはよ切り上げて
/甲斐の国畑(はたけ)表を八つ颪
/畑(はた)表掃いて冷まじ八つ颪冬菜といへど首をすくめる
/松手入れ矯めつ眇めつ声かけて
/齢寄れば冷(すさ)まじて云ふ秋の暮れ
/葱買うて枯れ木の中を帰りけり蕪村翁を空耳にする
/さみしいと妻の背に寄る裏の背戸
/面会の適わずになるもどかしさ夕さり来れば雲を望めり
ばーさんが日常から欠けている。
面会無し。
どこの幽明界をさ迷ってゐるんだらう。
不在が長引くと、
さみしいと云へばさみしいのだ。
倉石智證