「鰯雲人に告ぐべきことならず」加藤楸邨

/菊の香や文化勲章の話しなと

/熊情報だんだん里に下りて来る

/松手入れ吾を熊と云ふ妻がゐて

/縁先に茶が入る松見る庭師かな

/白き湯気まず味噌汁の朝餉かな

/蚊柱や軒の先から庭先へ

/鯛にゅう麺骨気を付けてと妻が云ひ

/秋晴れやサンマルシェゆく丘の上

/有線の鳴りてにわかに風の寒む

/そこ退けとオンブバッタにブロッコリー

/稔てふ十九階のsunrise陽は赤々とノんドを照らす

「がんばれー」。

/秋吹くや冬毛に変るナキウサギ

/浄化て云ふきれいな言葉後の月

“出口”無し。

「あれらは動物だから」と司令官の言葉。

/葡萄棚採り残されて陽の箭柄

陽の箭柄が棚下奥まで入って来て。

/秋雲や人に語るべきことありや無し

/所在無きばーさん無くてくまんざれ妻庭に出てするをうろうろ

/アワダチソウ眼が痒くなる青の空

 

倉石智證