こんな時代がありました。

茶色い小瓶。

めめ海月が空を飛んで───

『ねじ式』です。

 

むっつりだな

何が気に入らないんだらう

街の真ん中にこんなものを持って来て

まさかネジ式、と云ふわけにもいくまい

 

まったく世の中の用に立たなくなって

河原に石を探しに行ったり

掘っ立て小屋でわびしく石を売ったりする

少ない通行人に自分をさらすことが大事なんだ

 

なけなしのおカネをはたいて

うらさびれた温泉に行く

夫婦は誰彼にも忘れられて

男はマントを着て岩の上に立って

両手を広げた

 

一インチのことさへ不可能に見える

倒れることが一番上手になって

さらに得意なのは倒れたらそのままになってゐること

 

雲が頭上に過る

男はマントをはためかせた

二、三度

黒い影が確かに岩の上から翔んだやうな

カミさんはたしかにそれを見たやうな

と云ったきり口を噤んだ

 

倉石智證