ミロヨ戦争ダ
皮ガ垂レ下ガリ、
オ腹ノモノガハミ出テイル
1950,2丸木位里・俊『原爆の図』「幽霊」
23,7,20朝日新聞
ぼくたちはこっち側にゐて
間違いなく焼け焦げた臭いを感じている
ミロヨ蝉ノ死骸ダ
眸がパッと見開かれて
蟻が平気で目の上を渡ってゆく
青空や雲のほかには映り出すものがあるのかな
ついに見つけたね青大将
なんでも素早い動き
地をむやみに這ってゆく姿はどうにも嫌われるわけだ
時たま木の枝からどさッて落ちてきたりするけれど
あれはひとつの不安の姿形スガタカタチ
気が付けば1945,8,6以降
それから途切れることなくセミが鳴いてゐる
恐怖が極限まで昂じたらどうなんだろう
あるいは傷みとかが耐えきれなくなったら無痛に変じるのだらうか
希望とか絶望はどうなんだらう
死の縁をさ迷って
ぼくなら「ミロヨ」と云はれてももう見たくないから
コハイからイタイから
もう眼を閉じてしまうに決まってゐる
少しのテレや含羞ずかしさも一緒に
見開いた眼の上を歩かれでもしたらイヤだもの
きっと固く目を閉じる
七月は八月のまへに置いて
みんなさまざまな夏の大空の下で
映り出すものがあるのかい
倉石智證