ミウォシュのことは知ってゐるかい。
すべては事物に横滑りする。
Like a rolling stone ───
勘違いばかりのことが過ぎてゆく
でもあすこに、膝を埋めれば
未だ曾て、
星空やバラや黄昏や夜明けの光を探すことが出来ると云ふ
石が泣いてゐる
石が泣きだすんだよ
壁が汗を掻く
壁が汗を掻き始めるんだよ
軍靴がすり減って
多くの人たちが目の前を通り過ぎてゆくものだから
手袋をして後を従いて行ったら
手伝ってくれと云はれた
十字架をひとつ立てた
それから何千云ふ数の十字架が立てられ
その間を風がひっきりなしに渡ってゆく
ミウォシュは生のことを書き
死が数行の間からこぼれ出る
四元康祐23,4/26朝日新聞
父が言う ここはヨーロッパなのだ
よく晴れた日にはすべてが手にとるように見はるかせる
いくどとなく押し寄せた洪水の後でいまは煙っているが
家なのだ 人々の 犬や猫の そして馬たちの
(「窓からの眺め」より)
膝をついて草に顔を埋めるがよい
そして大地が照りかえす輝きを見るがよい
そこに私たちがうち捨ててきたもののすべてを見出すだろう
星やバラ 黄昏(たそがれ)や夜明けの光を
(「太陽」より)
通常の詩のようなドラマや動きがないのです。
無垢や信仰や原初「永遠につながる一瞬」を形に。
夢に近い感覚がある。
“ワルシャワ戦争”の最中に書かれ、地下組織に渡される。
『世界』(副題「純朴な詩篇」)チェスワフ・ミウォシュ。
訳:つかだみちこ、石原耒(るい)、発行:港の人、2015年

