床に水をこぼしてしまった
それは木の床に飛び散った
お茶を飲み損ねてしまった
午後の零時になる
戦争はまだ終わらない
夜の兵士は昼の兵士になって
太陽は真上にあるけれど
それはあんまりにも眩しいので
愛さへあればと云ふが
欲しいのは弾薬で
またあの河を渡らなければならない
零時には呼び出されていたものを
約束だ
どれほどの信仰を束ねても
撃鉄の冷たさは慰めにもならない
1995石本正「艶」(23,4,15日経)
娘さんたちは兵隊さんがどこへ行くのかも知らないだろうし
いつの間にか景色から消えてしまってゐるのも
不図不思議に想ふだらう
だからお茶を飲み損ねてしまった
部屋のほんの入り口で
なにかを告げようと口にしたとたん
望郷の想ひが熱くノド元迄こみ上げ
水はコップにこぼれてしまう
国が見守る中で時と、場所と、日付が与えられ
男たちは殺されてしまふのだった
将軍さまが云ふには
大局には関係ないだらう
と云ふことだった
倉石智證
