山上山楽。
山が好きだ。
遠い峰々、冷えた岩稜。
「おーい、そこなお人」
とつい対面の山の御仁に声を掛けたくなる。
鏡池ではきっと僕らがそうであったやうに、
逆さ槍を池の面に、
昼寝をうつらとしてゐる人たちがゐるだらう。
缶ビールを枕において、岸辺のテラスで一炊の夢。
かと思ふと抜戸岳のあたりを笠ヶ岳に向かって
とぼとぼと歩いてゐる人もゐるんだ。
あるいは反対方向の双六、蓮華に向かって、
黙々と歩き続ける人。
「おーい、そっちの方には何かあるんか」
「水晶岳までゆくんかね」
いくつもの遠い峰々。
破れ蝶が秋草の間から飛び立つ。
みんなみんな一炊の夢で、
そして、私がけふどこにゐるんかと云へば、
さうなんだよ、
槍の穂先にゐる。
倉石智證

