上がれ
雲の上に上がれ
あの稜線を出たらパンセに遇う
明け方、ヘッドランプの灯りが列列と
つながり登るのを見たよ
星々の顫へ
待ちきれずにテントの外へ、
靴ひもを結ぶ
とまれ喜びは
朝露を踏んで行けば
やがて夏の積乱雲が真っ白に湧き上って来る
何億と云ふ虫が谷に生まれる
朝の陽の光の中にキラキラと浮遊し
アキアカネが稜線を越えて来る
地上2800㍍のパラダイス
虫たちはシシウドに騒乱し、
たった今虫たちの食のテーブルにつく
チングルマ、フウロ、キンポウゲ、キンバイ、
キキョウ、トウヤクリンドウ・・・
次々と切りもなく眼の前に眼路を塞ぎ
あゝ山にはパンセ
あの太い山稜の背のなだりを見れば
あらゆる感情の側面が峰から嶺へと移って行って
だから目を閉じるとパンセ
あゝ、わたしは生きてゐる
星々の間に
幾千の星々が顫へ
なぜ山に登るのかと云へば
それに遅れてはなるまいと
老若男女が息せき切って登って来る
「生ビール冷えてます」と
看板がぶら下がる
夏の雲が笑ふ
倉石智證



