村に入ると多くのものがわたしを迎えてくれた

太い柳の木の葉が枝垂れて

風に無数の若葉がきらめく

鉄路は長く駅舎から別れて続くものもあった

大きな車輪が無造作に置かれ

そのいくつかは錆が浮いてゐる

工場の音は長閑に時季を刻んで

鉄路の脇に生い茂ったどくだみの花の勁い匂ひが

鼻腔を激しくついて

いくつかの風景の断片は

私を奮い立たせてくれた

1965安谷屋正義「望郷」嘉手納基地から連日ベトナムへ爆撃機が飛び立ってゆく。

 

血で繋がってないものなどないのだ

ぽつんぽつんと顔をひょいと出すものもゐる

姻族の立ち並ぶ間を坂に沿って上ると

なつかしい我が家が現れる

何年かぶりになる父の顔が引き戸の奥に見えて

息子を父が迎える

懐かしさに

再び彼が地に降りる時

彼の声は

それでも果物のやうにみずみずと響ゐた

 

倉石智證