野に朗々といつ詠へるのだらうか

樹木や樹液についても詩へるのだらうか

高い山や或いは低い山についても語れるのだらうか

蛇行する川については、小川でもいい

かって少年の自分が服が濡れるのもかまわず、

真っ黒に陽に灼けて

陽にうつ伏せになってジャブジャブと川魚を石の下に手探る

夏休み、ファーブルが飛び出て来た時にはぴっくりしたが

蝶ほどの忍耐をもって川を渡ってゆけるのだらうか

1914村山槐多「風景および手」

 

閑寂な隠れ家は自分の中にこそあると云ふ

魚の尾びれが激しく水を叩く

太陽が水色に飛沫となって顔に飛び散る

わたしの肢体は水翳にゆらゆらと斑はだら模様になって

わたくしの幸福は躰が硬直するほどに最大限になる

太陽の眩しさにうろうろと河原伝いにゆけば

眼の端に魚影が一斉に驚いて泳ぎ去ってゆく

 

披けゆく麦畑に飛び込むと

黄麦がこんなにも広いとは気が付かなかった

幼いもの同士が秘密めいてしゃがみ込む

ちくちくする穂芒すいぼうがわたくしの目蓋に紅く

でも、わたしの記憶の中では一切、

世界の争いごとなんてまったく知らなかった

まっぴらごめんだ。

むごいことだ。

乾いた石の上に魚の腸はらわたが干からびてゆく。

 

倉石智證