ゴリラでもいいのかい

いやゴリラがいいんだよ

もの云はぬゴリラがこっちを見て笑っている

陽の光が木の間にちらちらしてゐる

写真、浅井慎平

 

大津波が村を襲って、わたしは山の上の老人に

おサケのペットボトルを下の海寄りから届けると決めた

もうみんな木の肌のやうになってしまった年寄りたち

貧しいがいいんかい

やる気をなくしちまったのがいいんかい

わたしは或る日

山の下から山の上へ喰いモンも持っていこうと決めた

みんな壁に向かって凝っと黙ってゐる

 

ゴリラの目玉がじろりと動く

あれから何処へ行ったんだ

新宿二丁目ではゴリラの目玉

随分やはらかいなぁ、

やっぱずいぶんやはらかくなったと想ふよ

 

福島あつし「ぼくは独り暮らしの老人の家に弁当を運ぶ」

シユッ子さんちの家は恐ろし事になってゐる。

老犬がほくほくした土の土蔵の前の庭にゐて、

屋根の下の柱に首ひもを付けたまゝぐるぐる回って、

挙句ぐるぐるのまゝ、首を柱に預けたまゝ、

目を閉じて眠ってゐる。

うんともすんとも云はなゐまゝ眠ってゐて、

眠ってゐる鼻面の先の土蔵の入口には、

犬のフードの空き缶がてんこ盛りに積まれていて、

シュッ子さんちの玄関を入って居間に入ると、

足の踏み場もないほどに

いろんな用具や雑貨や喰いモンが散らばってゐる。

シュッ子さんは94歳で、うちのば様の幼馴染で、

成績がクラスでよくてしっかりもので、

でも旦那さんにはとおに先立たれて

今は独りで暮らしている。

 

倉石智證