しをん、しをん

それでいいんだね

春風に乗ってきみを呼べば

あゝ、なんといふことに

うす桃色にほどけて

しをん

いつもは言葉少なにはにかんで

おまへは何処を見てゐるの

しをんしをん

春紫苑、し・を・ん───

もの想ひに口の端に乗せると

ひらがなにやさしくほどけて

いくつもいくつも数へきれないほどに

空へと飛んで行った。

 

藤房。

一夜さを過ぎておほかたは風に吹き飛ばされて散っていった。

ジャーマンアイリスがまず一輪花苞を披いた。

罌粟は小首がながく考え深げ。

シャクナゲが空へと紅色に咲いた。

躑躅は白は無垢に、紅は力が漲ってきている。

バラはいま手元にある。四月のバラ。

散歩。ばーさんは村の道を橋の方へと遠ざかり、

男性が乗用草刈り機を運転してこちらに向かって来る。

空に積乱雲が立ち昇り、にわかに風が出て来た。

 

倉石智證