降りて来た

何が ? 

1951恩地孝四郎「リリックNo.12 たよりない希望」

 

ただの思考かもしれない

窓辺にかもしれない

机の前に、かも知れない

わたしは水に泳ぐ魚ではないのだから

そんなに目の前で餌をゆすぶらなくてもいいと思ふ

思考は餌なのかもしれない

食餌は限りないのだ

空の奥処おうかからかもしれない

知らせは印なのかもしれない

予兆めいて、しかしそれはすぐに引っ込められる

水寞の向かうに退いてゆくのだ

すぐにまた降りて来た

云ひ訳めいて

なにか誰かさんの後ろに隠れて

わたしが水底から水面を覗くと

釣り糸らしきものを垂らすだれかさんがゐて

くすくすと相変わらず笑ってゐる

水の膜がゆらゆらゆれて

水の輪が幾重にも広がって

わたしはついついパクっとやってしまい

たうたう天高く吊り上げられた

 

たわいもなく思考はベッドの脇にうず高く積もって

言語は窓枠から溢れかえって

どうにもやるせない

あなたが指摘するやうに

万事わたしの気のせいに過ぎないのかもしれない

食事ですよーって

階下から呼ぶ声がする

 

倉石智證