お誕生日をやりましょうよ

きっとみんなからお祝いが届いているから

郵便配達夫ののどかなバイクのエンジンの音や

地の中からは待ちきれずに福寿草の花の啓ひらく音だったりして

なんにしても畑に、空の電線に

もっと上の春の潤みがった雲にも

そしてようやく玄関に

ドアが引き開けられて

さあ、無数の言葉が届けられる

お誕生日おめでとうって

なにしろ九十四回目の誕生日だもの

何回も、何度も、昨日から、今朝も

くり返し「けふは何の日」って練習して来たね

花をテーブルに飾りましょう

夜が暮れてくるころ

さあではでは、ケーキのローソクに火を点けましょうか

ゆらめく焔が上気した顔を照らします

ほっぺを膨らませて火を消すんですよ

Happy Birthday の歌は私が歌います

手拍子、ご唱和ください

それ、ハッピーバースデー・トウーユー

「2.14 ニーイチヨン」はバーさんの日だ

聖バレンタインの日だ

世界中が祝ってくれる

無数の言葉が世界中を飛び回って

そしてばー様の上にもやって来る

めでたいねー

一年ひととせを無事に乗り切って

また新しい齢が始まるね

とほい市川の方で

夜空にドンと花火が鳴った

ほら、ば様

お誕生日をお祝いしてくれているよ

それをば様は「だれの誕生日でい」って聞き返す

夜の帳もすっかり降りる

積もり積もることはいっぱいあるのに

たちまち妻の丹精した料理のことも

ケーキも、吹き消したローソクのことも

全部記憶の彼方に忘れちまってゐた

やれやれ、ばーさんのハッピーバースデー

娘は宝登山へ蠟梅を見に。根方には福寿草がほっこらと。

 

倉石智證

2017年、ちょうど2/14、ば様の誕生日の日にじ様は入院した。

いったんは回復し、自宅に戻って来れそうだと喜んだのもつかの間、

次第に食事も受け付けなくなり、衰弱。

3/18に逝去した。

享年97歳だった。

人は一息の息を吸っておぎゃあと生まれ、

一息の息を吐いて、息を引き取ると云ふことらしい。

なるほど。

ば様はまだ僕らの目の前で迫りくる未知なる死を通せんぼしてくれている。

まったくば様がこれで亡くなったら、

ぼくらはむき出しにされ、それこそ直接死に直面するということになる。

無常迅速、さてこそ。