花の芯奥に港があって

唇を真っ赤に塗った老女が古い歌の調べを口ずさむ

心がとげとげしてきたらその間に蹲って

とげとげいがいが自分を傷つけて悦ぶ

と云ふやうないかんなぁ船の岬で茫々と

茫憶を見送る汽笛が云ひ淀む潤むよいま

さら歌謡を唄う人に今は小春日が束の間

続いてでももう木枯らしがやって来るハト

ポッポを想ひ出そうかあれらはいつ始まっ

たのかな不安や警戒心が翼を不用意に重く

する花の芯奥に港があって唇を真っ赤に

塗った老女が古い歌の調べを口ずさむその

横顔をポートレイト雨に唄えば雨だれが横

顔を哀しく汚してゆく捨て猫の孕み猫にな

っていつか未だかと次第に鳴く声も上ずっ

ていってたうたう第一線とばかり高い塀を

飛び越えたその向かうに広がる海と歌謡と

また海峡を渡ってゆく人がゐた

 

倉石智證