秋の行進はしづしづとやって来る
街を濡らし、村を濡らし
あの詩人の場合は軍艦やブロンズ像を濡らし
けふは漁場に魚一匹上がらなかった
魚の目を濡らし
晴れさえすればトビウオの船の舳先を越えてゆく
1955丸木スマ「簪(かんざし)」80歳
行進はしづしづと森の奥深くへと入り
キノコの村では
たとへばブナハリタケがびっしりと倒木を白く埋め尽くしてゐたり
それを道標とて
橡の実を山径に並べて置いてみる
カメバヒキオコシの小さな紫色の花穂が私が歩くたびに
私の膝を濡らし
とほい山並みでは黒々としたクマが
ハイマツと笹原を舟のやうに漕いでわたって行く
丸々とした小熊が遅れまいと何度も転がって
そんな風に秋の行進はしづしづとしづしづとやって来て
あの大詩人の場合は軍艦やブロンズ像を濡らし
僕の場合は瓦を濡らしてゆく雨の音を三半規管の中に聞き
悲しいと云ふほどのことではないが
とりとめもなく所在なく
回転椅子をくるくる回しヤァと声をかけると
秋の気配は部屋の前に来てトマッタ
思慮深げな貌をして
何かを伝えやうとして
手になにかを持って
倉石智證
