あったとサ・・・
1975駒井哲郎「二つの花瓶と花」
とんとんトンガラシは隣村
隣村の村長さんは酒が好きでトンガラシ
いつも鼻の天辺が真っ赤だね
正直者の村長さんは思ってゐることがすぐに顔に出て
それで鼻の頭が真っ赤だね
天狗さんもびっくりだね
ついつい山から下りて来て覗き見る
唐辛子を軒に干してさあ辛くなるよ
玄関に真っ赤に吊るされて
さあ悪霊も悪疫も退散だね
とんとんとんからりとやって来るのサ
正直者の村長さんは
あゝ、酔ったからって天狗の鼻をひっつかんで
ぐるーりくるり
自分も目が回ってぐるーりくるり
とんとんトンガラシは軒先にあるよ
秋を迎えるからって奥さんがいっぱい摘んでぶら下げた
あーあ、村長さんはひーりひり
天狗の鼻が奥さんに引っ付いた
さあ、これは困った大変だ
放しなさい、いや離れてよ
いや離れないでよ放しなさい
ぐーるぐーる
隣の村の村長さんは正直者でトンガラシ
いつも鼻の頭は真っかっかでひーりひり
それを羨んだ天狗さんは
真っ赤なお鼻を振り立ててお山の天辺から下りて来た
奥さんは働き者で気立てがよく
寒い季節が来るだらうからと
トンガラシをたんと摘んで軒先に干し並べた
悪霊退散、怠け者退散、奇妙頂礼と
奇妙頂戴と
天狗の赤鼻が奥さんに引っ付いた
あぁあ、いけないんだ、いけないんだ
奥さんは旦那様のお腰に手を回す
天狗さんは奥さんのお腰に手を回す
旦那さんは天狗さんのお腰に手を回す
おまへさんのものはわたしのもの
わたしのものはわたしのもの
いやわたしのものはおまへさんのもの
屋敷のまはりをぐーるぐるぐーるぐる
三つが一つになってぐーるぐる
たうたう業を煮やす
トンガラシは軒先にあるよ
お地蔵さんが笑ふ
トンビがくるりと輪を掻いた
倉石智證
