どうだらう
よかったらその手を置いて行ってくれないか
もう少し経てば全消滅に
まったくこの地上から跡形もなく消えてなくなる
そこに花が咲いてゐたやうに、
その花よりもずっと前にさらに別な花が咲いてゐたやうに
でも、そんな花たちもいつの間にか
時間に閉じられたやうに眼の前の景色から消えてしまふ
可愛らしい小さな手であったらしい
きっとふっくらとした手指だったのでせう
でも長い間竈の前に座り
地に這いつくばり手指で地面を引っ掻いているうちに
木の皮膚のやうに固く
意地のやうに狡猾に少し拗ねじけたやうだ
純一無雑の気配がそこに在ったとは思へない
そこには親類縁者の気配が漂ふ
誰にも云わないでと云ったけれど「もうたくさんだ」
ヨメサンが年寄りの面倒見てくれんのちょうどじゃんねえ。
嗚呼、散あらけし団欒まどひが今も
1960細江英公「男とおんな」
反少女だからってパンツを穿き忘れた
乾いた河原に出たらスリットから真っ赤な血が零れた
ぼくなんか知らないヨーって、
少年が田圃の中の真昼の道を駆けてゆく
雲の峰いくつ崩れて
もうすぐ雷が雨を運んで来るでしょう
大人たちは知らん顔していつもより長い昼寝をむさぼる
不穏な空気が盆地いっぱいになって
すぐに雨が少女の髪の毛を濡らす
大人たちは早く少女が大人になってくれんかね、
と何度も懇願し
少年は納屋の方に謝りに戻って来た。
いつかきっと
元の小さくてふっくらとした可愛らしい手に戻るかも知れない。
ああ、ヒバリハソラニ。
倉石智證
