鳥が墜ちたなんて云ふ話は聞いたことが無い───

1973,3(絹谷幸二31歳)安井賞「アンセルモ氏の肖像」

欠伸さん欠伸さん

けふはほんたう眠い

紫の雲を突き抜け

桃色の雲を突き抜け

ぷあぷあほあほあと

どこまで上って行くのだらう

机の角に頭をぶっつけさうになる

天の配慮と云ふものが必要になる

 

欠伸さん欠伸さん

さうやって机の前で雲のやうに行き悩んで

お城のやうに頭蓋が雲に取り巻かれて

まったく大欠伸をすると目の端から涙がこぼれ出て

咽チンコが雲の間に垂れ下がる

桃色の肉色のチンコだね

健やかに濡れてゐる

 

あすこに絶望した人が突っ立っていて

もう何時間も棒のやうに同じ格好をして

暗がりに灯りを点けた電信柱か何かのやうに

しーんとしちゃってゐる

なにか喋るか、呑み込めばいいのにね

 

欠伸さん欠伸さん

ものすごーく退屈してゐると云ふわけではないんだが

もう眠くて眠くて仕方がない

大欠伸をすれば咽チンコが膨れてぶら下がり

もうなんか喋るか

大声で歌い出せばいいのに

あの棒のやうな男はそれもしないで

つくづくと天の配慮と云ふものが必要なんだ

 

鳥が空から落っこちてくる

そんな話なんか聞いたこともないんだからサ

さあ、今のうちに

 

倉石智證