ほうらこの薔薇の花の露の中に
真っ赤に、たとへば五月の薔薇は歌ふな
とお示しになる
やがて陽が上がって来るころ
一番目の蟻が無心に赤く染まった棘をいくつも越えて
花芯めがけて上って来るのだらう
この露の玉の中にしこたま
沈黙を閉じ込めて
誰も五月の薔薇のことは歌ふな
呼び止めて
云はずもがなである
荊棘に指を切る
深紅の、五月の薔薇の
痛みとともに天の啓示のごとく
高々と掲げられ
一筋の血の滴りに陽が射し入り
愛は悉く引き裂かれることも
心地よい痛みに代わるころ
罪を得るたびに何度も大きな安堵を得たことだらうか
ある種の満足感とともに
背を向けて
「薔薇刑」───
微笑みを浮かべひとり立ち去る、
と云ふことになるのだ。
1963,3/25三島由紀夫「薔薇刑」(細江英公)初版
倉石智證

