そこに身体が置かれていたとしても

波がとりとめもなく打ち寄せて

次第に形なく削られてゆくのだらう

退廃の海に足を踏み入れる

気が付けば腕が片方無くなってゐる

なんて云ふこともあるかも知れない

アブナイと思へば、そして、それらは夢であるとようやく気が付いて

重い衣服を引きずって引き返してくるのだった

1937北脇昇「章表」

 

私の起源を森の木の下に置いてみる

伸びやかに呼気をするたびに

私が出ていって

葉緑素さへ私を理解してくれてゐる

間違いなく無数の葉根が背中から生えていって

ぬるい湿気の中にしげしげと触手することになるだらう

なにひとつ完成形と云ふものはないのだった

 

ただひたすらすべてが溶けあってゆくと云ふやうな

眠くなる

眠たげな心地よさに

私のミトコンドリアが目覚め

起源へと

そこは底深い海の

海色のことだった

またしても退廃の思惟が渦を巻き混濁し始め

いやしかし、

退廃の海こそがやはり自分の故郷なのではないかと

始原へと

帰ろうと

何となく引きずられる思ひでいそぐのだった

 

倉石智證