1933古賀春江「そこに在る」

魚が骨ばかりになって泳ぎ出していたら

それは微かに残った命のためらいによるものだらうか

壁の中から泳ぎ出してくる

もうほとんど無防備な哀しみと云ふものがあって

水の中でかなしみにいびつに歪んでゐる

水寞の寂寞じゃくまくに下りてゆく

告白するかのやうに口の端から泡が零れて出て

立ち上ってゆく

 

法廷では───

喋るたびにみなこちらを振り向くのだ

みんな見たことがある顔ばかりではないか

 

水に棲むものたちはもはや苦しいとは云はない

それを鳥たちは水の上で鳴き躁ぎ

敢えて哀しみを告発する

壁の中から泳ぎ出す魚は骨ばかりになって

それでもいつかは青の水から泳ぎ出て来るのだらうか

ってしまった命は、もう帰って来ないだらう

 

倉石智證