1922~23村山知義「サディスティッシュな空間」
この乱雑な中から何かを拾い出せ
と云ふのだ
色であるのか形であるのかおまへに任せる
と云ふのだ
僕は出ていかなければいけないから
分からんよ
と云ふ
花ならば花の名の前だ
ことの来歴は問わないだらう
多くの出会いの中で一つを選ばなければならない
愛はどうなんだらう
と不意に私は問いただす
笑ふばっかりで
そんなときしゃがみ込むと
蜜蜂の翅の振るわせる音が
畝の間からのんびり聞えて来る
背伸びして、背伸びして
空に絵を描く
シャボン玉もたんぽぽの綿毛も
みんなみぃんな飛んで行った
気を取り直してぼくはまっすぐに立ち
ゆっくりと歩き出してみる
舌打ちする音や叱責する声が
姿を見せない壁の中から聞えて来て
あゝ、いやだいやだ
この乱雑な中から何かを拾い出せ
と云ふのだ
そんなことはみんな愛の傍ら行われたことで
ここかも知れないがここでもなく
すっかり承知のことなんだが、私たちは
全体に幸せになりたいと思ふ
倉石智證
