1933古賀春江「そこに在る」

 

林檎はまったく可愛いのであった

山の上から下りて来る道は曲がりくねって

そんな道の両側に林檎は鈴なりになって

林檎畑は遠くの方まで傾なだりて広がっていた

私は真っ赤な林檎です

そんな可愛いリンゴは停車場で私を待っていてくれて

故郷を離れる時林檎の眸の私をじっと見つめて

 

十三七つ

故郷忘れてはないちもんめ

指切りげんまん緋ちりめん

千曲川辺が曲がって流れ

命蛍が流れていった

 

火付けたのは誰さ

腰巻ばかり跣はだしになって

林檎可愛いや山から下りる

村の巡査が追いかけて来る

狂ふとき狂へれは

髪振り乱し赤い血を股に滴らせ

紅蓮ぐれんの炎を逃げてゆく

林檎一つを手に胸に抱き

故郷忘れてはないちもんめ

 

古い古いお屋敷に育ち

いつしか狂せるを狂し

年若き娘が日暮れて

ほうやれほ

千曲川べりにあれさ

 

倉石智證