おお、 

こんなにも真実に夕暮れを見つめたのは 

いつからのことだったらう 

一刻、青空になったけふも 

神楽三俣の辺りから陽は静かに暮れてゆき 

白く浮き立って見える高速道路も 

やがて夕暮れに沈む 

野も山も雪で真っ白に埋め尽くされてしまった 

村のあちこちにじきに暖かい灯が点り始め
真実今年も了 はりになる

 
俺タチばっかり生きてゴメンな 

2011 年と云ふ年に 

だとすれば 

家の上に浮かぶ船を忘れないようにしやう 

だとすれば、2011 年と云ふ年に 

浜辺に最後まで頑張って生き続けた 1 本の松のことを 

忘れないやうにしやう 

2011 年、 

だとすれば 

海が最初真っ黒になって街区や村落に襲い掛かってきたことを 

山のやうに盛り上がって 

容赦なく 川を遡上してきて学校を丸ごと飲み込んだことを 

忘れないやうにしやう

大川小学校は保存することに。

 

死者は生者を打つ 

死者は生者を打ち続け 

「3.11」、M9、溺死、溺水、溺砂、 

(遺体検案書)

亡くなった方たちは何かを云いたいのだ 

激しい殴打、おびただしい鬱血

 実のところ、今も立ち竦んでゐる 

釜石、陸前高田、気仙沼・・・ 

舟も車も塵芥となって街区に流れ込んで 

雪がちらつく寒気に 

炎が夜空を真っ赤に焦がし始め

 こんな中にも 

多くの奇跡は方々に起こったが

 生きるとか、命とか 

いきなりさまざまな方向に放り出されてしまったものだから 

人々の声が木魂して響きあって
最後は深く鎮 しづ もり 

手を結ぶ祈りになった

何人の車椅子の老人を丘の上まで運んだことだらうか 

何台の車を橋の上であっちへ逃げろと指を差したことか 

迫り来る津波の恐怖におびえながらも 

最後まで避難指示のマイクを手離さなかった女の子のことも 

忘れられない 

大連の集団就職の女の子たちを丘の上に逃がして自分は・・・ 

忸怩たる思ひだ 

今でも後ろ髪引かれる思ひだ

宮城県気仙沼市

 

 花見供養するころ 

ぬるい風、

孕む 

一時、至るところを風が吹き渡り 

ぬるい風は孕み 

悪い報せや、セシウムやヨウ素 

眼に見えない災厄を 

丘に山に空に海に配って歩いた 

ピカドンでもなんでもないのに 

セシウムは足柄山まで飛んで行って 

ぬるい風、 茶の一杯とて

人々は口にするものに怯えるやうになって
それどころかフクシマには突然空無 くうむ といふ
虚無といふ、 

かって人々が経験もしなかった空白が

時間の隙間から生まれた

爆発で原形をとどめない福島原発3号機(左)4号機(右)

 

人々が住まないといふこと 

行き交う人々の挨拶がないといふこと
幻や蜃気楼が地衣を覆い、疾 しり 

巨大な虚無がゴヤの絵の怪人のやうに突っ立ち見下ろしている
飯館の野牛 のうし は田んぼに斃れ 

母牛は死産した子牛を股にぶら下げたまま野を歩き出す 

「3.11」と向き合う日々 

一人としてかすかな後悔の念を抱かない者はゐないだらう 

「3.11」がなかったことにして 

次の何かができるわけはないのだ

(仙台市若林区荒浜)

 

野位牌の列が続き、
お焚上 たきあ げはいたるところの仏寺で、 

相馬の神社では伏貝 ふせがい が鎮魂を響かせ、 

万灯会 まんどうゑ は列島の津々浦々に点され、 

不動明王は憤怒に光背を赤く染める、 

東大寺の大仏のお顔が開いた、
般若心経は朗々と声明 しょうみょう され 

おお、ここに立てば 

車列は続いてゆく

陸前高田市立博物館

 

全力で釜石を 

全力で陸前高田を、石巻を 

全力で飯館や浪江や双葉、いわきを 

人の気配を積み上げる 

気配は寄り添い太い束になって 

ああ、海を見れば鷗が群れをなし翔んで 

未だにここが豊かな海であることを告げ
漁師は舫 もやいを解いて

水脈 みを を海に曳いてゆくのだ 

貝塚を作らう 

1000 年後、2000 年後の貝塚を 

お家に帰ろう、住み慣れた家に 

見慣れた景色、故郷の空の下に 

祈り、住み暮すことが神話になるときまで 

どきどきして待ってゐたら 

ほんとうに在った 

微かであってもその奥の確かなもの 

希望といふ、 

幸福といふ 

迷ひ、立ち止まるとき

 眼差しが肩を抱く 

ならば、 

幸せではなく、

悲しみを抱いて生きやう 

2011,10,30「あいうぉんちゅー」南三陸の子供たち

 

俺タチばっかり生きてゴメンな 

2011 年と云ふ年に 

だとすれば 

間違っていたとしても 

生命が産まれその生命を育てやうと 

いつまでも下を向いてゐるわけにはいかない 

2011 年といふ年に 

だとすれば 

新しく生まれてきた赤ん坊たちに笑顔がこぼれるやうに 

笑顔がこぼれ続けるやうに 

だとしたら─── 

学校中に子供たちの笑い声が響き渡るやうな 

2011,10,9「ビッグパレットふくしま避難所」

 

2011 年の最後の最後といふ日に 

岩原のゲレンデの上の上に上った
最後の陽がさぁーッとあたりを廻 めぐ って 

はるか遠くの向かうに見える神楽の山の辺りまで飛んでいった 

地球の全部が一瞬明るんだかと思ったが 

すぐに日は蔭り始めた 

大いなる日月が肩を揺らしてずずっと動いたやうな気がした 

それから地衣は急に黙ってしまった

 

2018,7/13

『哀喪「3.11」災後物語』(下巻)

倉石智證