三岸好太郎(1903~34)「海と射光」

 

ララララ、ルンルン、リラリララ。

彼の人の口癖のやうに

それを歌ったからと云って金庫の扉が黙って開くわけではない

扉の向かうには乾いた砂漠が幾重にも続いてゐる

青い空がそれにちょっと掠めた

 

ぼくらには魚族の血が色濃く

空の喫水で盛んに媾うのだ

息せき切ってそのことを報せやうと

方形の縁を危うく走って来た

この空気の中にまだ生まれる前の

confliction(苦悩)や

ためらいや

呟きやさんざめきがあって

でもそれらはまた生まれた瞬間に

永遠のあの沈黙の中へ帰ってゆく

 

すぐに泣きたいほどの泣き色に滲んで

ララララ、ルンルン、リラリララと口ずさむのは

あたかも自分を励ますやうで

またぼくらは多くの場合の入り口に立った

 

倉石智證