1930カンディンスキー「ルントウムとスピッツ, (曲線と指摘)」

 

林檎だよ 

蜜柑だよ 

キャラメルだよ 

さあ、お食べ
 
おいで、みんなここへ 

さあ、もう泣くんじゃない 

やはらかく持ちあげる、

梁の上へ
やはらかく持ちあげる、

いらか をこへて
海に泳ぐもの 

空に羽ばたくもの 

陽が鎮まったら 

おいで、みんなここへ
 
黙ったままでいい 

海を泳ぐものは濡れたまんまで 

行き交ふものはできるだけにぎやかに 

出した手はそのまゝで

 踏みかけた足はなにを考へる
 
喉もとほらない 

やはらかく 

やはらかく 

やはらかく・・・ 

怒ってゐるわけではなく、 

泣いてゐるわけでもない。 

笑ってゐるわけでもなく、 

ただ、

痛いだけだ。
 
痛い、 

ただそこいら中が痛い 

横にもなれない 

なんだか忘れられない 

ゐ場所がない 

片時も 

わやわやとなってとてもたへられない 

だから、

影なんかよりも出ておいで
 
ちぃよこれいと 

甘いものがいいな 

まだまだ子供だもの

 輪になって 

輪になって 

輪になって
 
おいで、みんなここへ 

さあ、もう泣くんじゃない 

やはらかく持ちあげる 

梁の上へ 

やはらかく持ちあげる 

甍をこへて
 
けふも黄色い日輪が地衣を圧してゐる 

祖母は黒衣を脱ぎ棄てゝ、家を出た。

 

2018,7/13

『哀喪「3.11」災後物語』(下巻)

倉石智證