1914アンリ・マティス「コリウールのフランス窓」
ごっこはよくない
塩は砂糖より前に
水平は円いより前に
低いは高いより前に
冷たいは、あたゝかいより前に
覚えた
それを覚えたてに
真剣に とても高い家を建てゝ
そこに棲まうだなんて
ごっこはよくない
正気の沙汰とは思へない
日の出る方に三歩進み
日の翳る方に五歩下がった
ゐないゐないばあ
白いよりは多分、黒いを先に
真っ直ぐよりは多分、曲がるを先に
とどまるよりも先に流れるを
覚えた
そして、
まるで高いところに棲むやうになったころ
ようやく何か向かうの方が丸いのを
それもうすうす知った
ながいながいごっこの末に
なにかが、ほどけた
角と角を突き合わせているころはよかったのに
なにしろ
石畳の上をけふも蟻が這ってゆく
走るほどの速度で
上るのだ
塔屋の上に
円い眼を見張る
うろうろと風に靡く
ごっこはよくなくない
ゐないゐないばあ
高いところに上れば
それだけで降りるのに手間がかかる
円い丸い景色だけではないんだ
地衣に棲むことを学べば
頭上に
日の光りの開くのを知る
