胸が痛む 

ああ、本当に胸が痛むよ 

 

400 ㌔といふコンクリートの壁が 

うねるやうにオリーブの畑やブドウ畑を横切ってゆく 

先祖代々の土地だ 

石をもて、木の枝をもって抗議をするが 

とっても武器や、ブルドーザーにはかなわない 

石を持って戦った少年も 

自分の掌よりずっと大きな石を左手に 

右手で拳の大きさの石を投げようとして 

父と兄を殺されてしまった
 
ビゼーの「アルルの女」を弾く 

高らかに 

少年はあるとき恐怖と不実のなかで空しさを知り 

手にした石を 

ある日バイオリンの弦に取り換えた 

400 ㌔の塀の先の先で

バイオリンを弾いた 

他の大勢を含めた屋外のコンサート 

イスラエルの兵士たちが取り囲んでゐる
みずみずと「アルルの女」を 

私たちには夢や希望しかないとあなたたちは云ふが 

実際には ten thousand of missiles が世界に

憎しみがこれ以上に増幅する 

 

まるで砂漠をうねってゆく蛇のやうだ
まがまが しい 

そして黒く、邪悪で 

いったいぜんたい人の畠や 

オリーブ畑や、葡萄畑 

それに少し日陰にある先祖代々のお墓を 

そんなところをあの高い塀が 

まるでやはり邪悪そのものの蛇のやうに通っていって 

いったいぜんたいどの神様に 

悔い改めやうとするものなのだらうか
 
正気の沙汰ではない 

塀の前に腰をおろし 

手を打ち鳴らすと 

手と手の間からかすかに砂漠の砂のけむりが浮かんで 

そして、落ちた 

まるで、忘れていた煙草の

久しぶりの煙りのやうに
 
「国連にゆく」 

折から風が吹いたのだ 

アラブに春が
西から東へと、

パリサイ人 びと よ 

アッバスはオリーブの枝に手をかけ 

「国連にゆく」と 

折から西から風が砂漠に吹いて 

それは確かにパレスチナにも春が 

風が吹いたのだ 

うんざりだ、もうたへきれないわ 

やり切れない、われわれの自由は 

パンもワインも取り上げられて久しい 

ラマラに無数の自由の旗が舞ふ 

独立こそが我々の権利だ 

確かに風が吹いてゐる
 
憎しみがこれ以上に 

逃げゆく蛇に福音を与へませぬやうに 

邪悪が塀の高さをさらに高いものにしませぬやうに 

子どもたちの無邪気の声を聞くたびに 

思い切って窓を Judah にあける 

はやく、白昼夢に 窓を開けよ、

白日夢に 

でなければ 

また strange fruit hanging 

奇妙な果実が窓の外いっぱいにぶら下がってしまうことに 

 

「奇妙な果実」は、ニューヨーク市ブロンクス地区のユダヤ人教師
エイベル・ミーアポル(en:Abel Meeropol)によって作詞・作曲された。
1930 年 8 月、彼は新聞でトマス・シップとアブラム・スミスという
二人の黒人が虐殺されている場面の写真を見て衝撃を受け、
これを題材として一編の詩「苦い果実(Bitter Fruit)」を書き、
「ルイス・アレン」のペンネームで共産党系の機関紙などに発表した。
彼はユダヤ人で、そして共産党員だった。
そこには確かに人間として、あるいは人類としてなにも矛盾はなかった 。 

 

アメリカといふ国───
「Strange Fruit」
Southern trees bear strange fruit (南部の木には奇妙な果実がなる)
Blood on the leaves and blood at the root (葉には血が、根にも血を滴たらせ)
Black bodies swinging in the southern breeze (南部の風に揺らいでいる黒い死体)
Strange fruit hanging from the poplar trees. (ポプラの木に吊るされている奇妙な果実)
Pastoral scene of the gallant south (美しい南部の田園に)
The bulging eyes and the twisted mouth (飛び出した眼、苦痛に歪む口)
Scent of magnolias sweet and fresh (マグノリアの甘く新鮮な香りが)
Then the sudden smell of burning flesh. (突然肉の焼け焦げている臭いに変わる)
Here is a fruit for the crows to pluck (カラスに突つかれ)
For the rain to gather for the wind to suck (雨に打たれ 風に弄ばれ)
For the sun to rot for the trees to drop (太陽に朽ちて 落ちていく果実)
Here is a strange and bitter crop. (奇妙で悲惨な果実)
 
宗教は一体全体なんでもやってしまう。
人類の普遍的価値とはなんぞや・・・
オバマさんは拒否権を発動するのだらうか。 

 

2018,7/13

『哀喪「3.11」災後物語』(下巻)

倉石智證